大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和42年(あ)969号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人真野毅、同山口信夫、同鈴木富七郎の上告趣意のうち判例違反を主張する点は、引用の判例は、本件と事案を異にして適切でないから、所論はその前提を欠き、また憲法違反を主張する点は、実質は、単なる法令違反の主張であり、その余は、単なる法令違反の主張であって、いずれも、適法な上告理由にあたらない。

弁護人田島良郎の上告趣意は、違憲を主張する点もあるが、実質はすべて単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

弁護人海野晋吉、同竹下甫連名の上告趣意は、判例違反を主張するが、引用の判例は、本件と事案を異にして適切でないから、所論はその前提を欠き、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

所論にかんがみ、職権によって調査すると、被告会社に適用された外国為替及び外国貿易管理法七三条の規定は、法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人または人の業務または財産に関して、同法七〇条ないし七二条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、事業主たる法人または人に対して、各本条の罰金刑を科する旨を定めたいわゆる両罰規定であって、事業主たる法人または人に対しては、右七三条の規定が根拠となって、前記七〇条ないし七二条の規定のうち罰金刑に関する部分が適用されることとなるわけである。すなわち、事業主たる法人または人は、右七三条によって、行為者の刑事責任とは別個の刑事責任を負うものとされ、その法定刑は罰金刑とされているのである。そうすると、事業主たる法人または人に対する事件は、行為者が共に起訴されて、刑訴法九条一項二号、三条一項により関連事件の管轄を生ずる場合は別として、裁判所法三三条一項二号により、簡易裁判所の専属管轄に属するものと解すべきである。しかるに、行為者が起訴されていない本件において、地方裁判所にも管轄権があるとの前提に立ち、地方裁判所のした第一審判決を破棄しながらこれを管轄簡易裁判所に移送することなく、直ちに自判した原判決には、法令の解釈適用をあやまった違法があるものというべきである。しかしながら、本件は、控訴審において破棄自判している場合であること、その他事案の内容および審理の経過に徴し、さらに事案に対する宣告刑も不当とはいえないことにかんがみれば、原判決を破棄しなくても、著しく正義に反するものとは認められない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例